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「飲みやすい」は誉め言葉 共生の豊かさ込めた酒

高島市 萩乃露醸造元「福井弥平商店」

「醸-かもす-」2015年6月号掲載

 ‟情景が見える酒を醸す”。寛延年間(1748年から1751年)創業の蔵元、福井弥平商店の指針の一つだ。それは「うちの酒が生まれてくる背景っていうのがあって、それをちゃんと意識して造る」ことだと福井毅社長はいう。

 「奇抜なことはしていないし、することも考えていない」と福井社長。もちろん、ただこれまでの酒造りをのんべんだらりと繰り返してきたという意味ではない。

 「日本の棚田百選」に選ばれた高島市畑地区の棚田の保全活動を応援しようと、棚田で収穫されたお米を使った「純米吟醸 里山 生原酒」や、地元高島の非常にやわらかい水でキレのいいお酒を造ろうと、「山廃仕込 特別純米 芳弥」を醸し、昨年からは通常よりも少ない水で仕込む十水仕込みのお酒「雨垂れ石を穿つ」を醸すなど、様々に取り組んでいる。

 現在は、搾った後のお酒の状態をよりよくするため、これまで大吟醸や生原酒など、品質管理の特に難しいお酒で行っていたびん貯蔵の対象を定番酒にも広げ、工程の見直しも含めて瓶詰めまでの期間や貯蔵時温度などの最適化を進めている最中だ。

 しかしながら、「奇抜なことはしていない」と話すのには理由がある。

 福井社長は言う。「うちは高島の酒蔵ですから、高島でやるべきこととやれることを一個一個やっていこうと思っているだけです」

 消費者の関心を引くために何かをするわけではない。自分たちが根ざす高島の地で、時代の変化にあわせて、酒蔵として期待されること、求められることを一つ一つやっていく。そして結果的に変化している。それが260年余の時間、高島の地に根ざし育まれてきた福井弥平商店の、自然体の姿なのだろう。

 目指すお酒の品質についても自然体の姿が見える。福井弥平商店で醸すお酒の信条は、「酔うための酒ではなく味わうための酒」。そのカギになるのは〝飲みやすさ〟だという。

 「例えば、味があってもどこかに引っかかりがあったら飲みにくいじゃないですか。体にスッと入ってくるのが飲みやすさだと僕は思ってるので、〝飲みやすい〟は最高の褒め言葉だなと思ってるんですよ」。

 奇をてらうわけでもなく、無理に背伸びをするわけでもない。時代の流れにあわせ自然に変化し、日常に素直に溶け込み生活を豊かにする。「酔うための酒ではなく味わうための酒」は、生活を味わうお酒。そう解釈しても差し支えはないように思う。

 豊かな自然や里山で育まれた、良質なお米とやわらかな水、そしてその地で生きる人たち。それらすべてが共生することで享受する豊かさ。萩乃露にはそんな情景が込められている。

 福井弥平商店 〒520‐1121

 滋賀県高島市勝野1387‐1

TEL 0740(36)1011/Fax 0740(36)1633

HP http://www.haginotsuyu.co.jp/

※本記事の内容は日付等の記載がない限り「醸-かもす-」掲載時点でのものであり、将来にわたってその真意性を保証するものでないこと、掲載後の時間経過等にともない内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。

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