東近江市 喜楽長醸造元「喜多酒造」
「醸-かもす-」2015年5月号掲載
「まだ30代やったころ、お酒の会をした時に、ご夫婦で本当においしそうに飲まれていた妙齢のご婦人に『喜楽長を飲むと心が優しくなるんですよ』といっていただいて、もう嬉しくてね」。
文政3年(1820年)創業「喜多酒造」の喜多良道社長が理想とする酒は、味とキレがありつつ、柔らかく滑らかさがあり、人の心を優しくするお酒だという。
妙齢の夫人に優しさを伝えたお酒を醸したのは、昭和30年から平成17年まで喜多酒造で杜氏を務めた能登杜氏、天保正一氏だ。
「父亡きあとの私にとって、天保さんは父親のような存在で、酒造りのことも天保さん
から教わりました」。
父親は38歳の若さで他界した。14歳で父親を亡くした喜多社長にとって、天保氏は父替わりであり酒造りの師匠でもある。そんな信頼関係を基に、常に新しい何かを取り入れて、市場や時代にあわせた酒造りを続けてきた。
その姿勢は今も変わらない。近年は縁あって、地域開発運動や産学連携にも携わるようになった。琵琶湖の内湖である西の湖に浮かぶ島状の飛び地「權座」で栽培した米で醸した純米吟醸酒や、田んぼに魚道を設置し、生き物と人が共生できる農業・農村の形を復活させる取り組み「魚のゆりかご水田」で栽培したコシヒカリを使った純米吟醸酒「月夜のゆりかご」(1800ml・3000円/720ml・1500円/ともに本体価格)は地域開発運動の一端を担うお酒だ。
純米大吟醸酒「湖風」は滋賀県立大学との連携から生まれたお酒。初めて5年目の取り組みは、学生たちのフィールドワークだけに留まらない効果も出始めた。
「酒類業界に進む学生たちもいて、そんな話を東京の酒販店さんとしてると、ぜひ人材をほしいという話になってきましてね、志のある若い人をご紹介していく。そういうこともやって行きたいなと思ってます」。
5年後、喜多酒造は大きな節目の年を迎える。
「私ども地酒蔵というのは、販売してくださる方たちはじめ、地域や風土、地域の人達に育んでいただいて今に至るわけです。そういう方たちへの感謝を込めて、今後どういう道を進むべきかということをご提示できるような、そんな200年でありたい」。
若い社員も増えつつあり、後を継ぐ長女ももうすぐ帰ってくる。節目の年が新たな何
かを導いているのかも、そう思わせるようなタイミングで創業200周年を迎える。
「心を磨き技を磨き米を磨く」。天保杜氏が盛んに口にした言葉だという。能登杜氏の思いを胸に、時代にあわせて変化を続け、研ぎ澄まされた伝統を積み上げていく不易流行の精神で、優しさが伝わるお酒を醸していく。
喜多酒造 〒527‐0054 滋賀県東近江市池田町1129
TEL 0748(22)2505/Fax 0748‐24‐0505
/HP(http://kirakucho.jp/)
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