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古の知恵足場に一歩ずつ

第18回「白雪蔵まつり」未来を照らす長寿蔵の賑わい

「醸-かもす-」2015年3月号掲載

今月号の表紙は、兵庫県伊丹市の酒造メーカー小西酒造が開催する「白雪蔵祭り」のオープニングを祝う鏡開き。阪神淡路大震災の復興イベントとして震災翌年に小西酒造が始めた蔵祭りも、今では冬の伊丹のランドタワーさながら。「白雪ブルワリービレッジ長寿蔵」を中心とした会場に、毎年のべ1万人以上が訪れ賑わう、街の一大イベントに成長した。

 老若男女を問わず、燗酒やビール(珍しいホットビールも)を片手に賑わう姿は、年齢や性別による酒類カテゴリーの垣根は思っているより低いのではないかと思えるほどだ。

 そんな賑わいも日本酒、ビール、ワインと幅広く扱う小西酒造ならではだろう。小西酒造は従来からの銘柄「白雪」と両輪をなすブランドとして、各種のお酒から得たノウハウを活かすブランド「KONISHI」を2012年に立ち上げている。今年創業465年目を迎える老舗酒造メーカーが、清酒だけにこだわらず柔軟な考えを持つ理由、そしてその狙いは。

 小西新太郎代表取締役社長はじめ、同社関係者に話を聞き、その理由を探った。

小西酒造の小西新太郎社長

震災耐えた古の知恵

 建造されたのは今から240年ほど前という酒蔵を改修し、直営レストランやビール醸造施設、ミュージアムを併設する白雪ブルワリービレッジ長寿蔵としてオープンしたのは1995年。阪神淡路大震災が発生した年だ。

 小西社長は当時のことをこう話す。

「震災の1年ぐらい前から計画してましたが、躯体がダメになってたらやめようと思ってたんです」。

 計画を進めてていた最中、震災に見舞われた。近隣の阪急伊丹駅が倒壊したほどの揺れ。しかし長寿蔵は倒壊することなく持ちこたえた。それは先人の知恵のたまものだった。

 三棟立ての建物が中に倒れこむ形でそれぞれが支え合い揺れに耐えたのだという。

 「宮大工の方が言われたのは、昔の方の知恵で倒壊しないと。改装するとき曳家して7メートルほど動かしたんですよ。転がして上だけを動かすわけです。下に直接結びついてないということですから、上の重さだけで建物が立っている。お寺とか昔の建物はみんなそうですね。その中で持ちこたえた。やはり昔の人の知恵は面白いなと。そしてその年の6月にオープンできたんです」。

 今年で創業465年を迎えた小西酒造。酒造り同様、いにしえの知恵が建物にも息づいていた。

ザ・コミュニケーション

 白雪ブルワリービレッジ長寿蔵をオープンしたのは一つの指針があったからだ。それは「ザ・コミュニケーション」。消費者との相互関係の構築だ。その情報発信の場所として改修された。

 「平成元年に特級がなくなって、平成4年に級別制度が完全になくなった時から、もっとお客様に近づかなければいけないと思って、『ザ・コミュニケーション』ということを提唱したんです。特級、一級、二級という級別制度があった時は、いわば業界側の決めたルールでお客様に飲んでもらっていた。それが無くなった時に、もっとお客様の要望をうかがったうえで、我々がどのような商品を世に問うべきなのかということを考えたんです」

 消費者は何をお酒に求めているのか、そして何をどう提供すれば互いに満足できるのか。その答えのカギはお酒を飲む場面・シーンに思いを馳せることだった。

 「場面・シーンの中で一番大事なのは食中酒ということ。そうなると醸造酒、となると日本酒とビールとワイン。それにもっと磨きをかけたい。そういう発想をもってやってきました」

 小西酒造は平成7年にクラフトビールの製造を開始。平成18年には広島県世羅町に「せらワイナリー」を開園した。ベルギービールは昭和63年11月から取り扱っている。

 共通項の創造

 醸造酒に磨きをかける。その思いは今、酒類を横断するブランド「KONISHI」に結実している。

 欧州最大のビールコンテストで2011年から3年連続で金賞を受賞した、「スノーブロンシュ」の生みの親である、クラフトビール事業部醸造責任者の辻巖氏は、「清酒の技術を使うことで、海外とは違う発酵のさせ方ができるんです。吟醸酒って、お米からあんないい香りができるなんて想像できないじゃないですか。それがビールでもあり得るんです。副原料の香りだけじゃなくて、主原料から出る香りと酵母が造り出す香り、そういうものがミックスされることによって出てくる香り。吟醸酒のような作り方をするとそういう香りを造ることもできるんですよ」と、効果の一端を語る。

 そういった技術的なことから、それぞれのお酒が好まれるポイントを違うお酒に取り入れ、新しい価値観を世に問うのもKONISHIブランドの役割だ。

 蓄積した技術や価値を基に、これまでになかったお酒を造り、消費者の関心を高め、探り、そして新しく得た気付きを醸造酒の類を問わす取り入れる。それを繰り返し、醸造酒の世界に磨きをかける。メーカー、消費者ともに満足できる共通項を創造する。それがKONISHIブランドの可能性だ。

誰も歩いていない道を行く

 とはいえ、すべてのもとは日本酒、そしてその根源である日本文化だ。

 辻氏は「日本独自のクラフトという世界を創らないとダメだと思ってます。海外から輸入してきた技術をコピーしたものであれば、ビールを輸入した方が早いわけですよ。私の基本は清酒の技術です。スノーブロンシュがなぜ認めていただけるかというと、味わいを日本人に合うようにしているからです」と話す。

 独自性とそれを裏付ける清酒の技術。それが世界で認められる要因だ。

 小西社長に今後の市場予想について聞くと「近代化にどうついて行けるか」と答える一方で、両輪となるもう一方が必要だと答えた。それは日本人の良さの理解だという。

 「もう一度日本人の良さを理解していただく。日本食だったり日本酒だったり、お祭り、季節感、そういうもの全部だと思うんですね。良い部分をどう引き継いでいくかということを、もう一度組み立てていく。」

 一歩前に踏み出す時、その軸足をどこに置くか。両足を跳ね上げ一足先二足先に飛びだすのは頂けない。なぜなら飛び出した先にもその未来にも確証はなく、慌てて後ろを振り返っても、以前の場所がもとのままとは限らないからだ。

 「誰も歩いていない道を歩いて行く」。日本酒造りで培ってきた知恵と技術。それを土台に新しい道を踏み固めながら、確実に歩を進める。KONISHIブランドの行く道は平たんではないかもしれないが、古の知恵で震災に耐えた長寿蔵のもとで毎年開かれる白雪蔵祭りの賑わいを見る限り、その未来は明るいように思う。

周辺一帯賑わう 伊丹のお祭り「白雪蔵祭り」

 白雪蔵祭りが始まったのは、阪神淡路大震災の翌年。途中、本社移転時期と重なり開催を見送ったが、地元の強い要望で長寿蔵感謝デーとして規模を縮小して開催したため、白雪蔵祭りとしては今年で第18回目ということになるが、実質毎年開催してきた。

 蔵祭りが開催される日は、同社の白雪ブルワリービレッジ長寿蔵を中心に、西側の三軒寺前広場では市内の小中学校や市内外のチームがダンスや踊りで盛り上げるお祭り「わっしょい!冬の元気祭り」も開催されるなど、周辺一帯が活気づく。

毎年1万人以上が訪れる白雪蔵まつり。振る舞い酒にならぶ長蛇の列は、会場内に収まらないほど。

 今年は長寿蔵が白雪ブルワリービレッジとしてオープンして20周年を迎える節目の年ということで、長寿蔵レストランでビュッフェスタイルでの食べ放題特別メニューを2千円で提供、2階ギャラリーでは清酒やビールなどの講座が開かれた。

 駐車場とその周辺では燗酒やベルギービール、クラフトビールなどを提供。まだあまりなじみのないホットビールも提供され、毎回人気を集めている。食べ物も長寿蔵レストランからのメニューや粕汁うどんなどのほか、冬の元気祭り会場までの道路では郷町商業会が各種の屋台を出店するなど充実しており、歩く楽しみがあるのも特徴だ。

小西酒造HP https://www.konishi.co.jp/

※本記事の内容は日付等の記載がない限り「醸-かもす-」掲載時点でのものであり、将来にわたってその真意性を保証するものでないこと、掲載後の時間経過等にともない内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。

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