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Vol.9 石炭の赤ちゃん「ピート」の香り

きのした ともかず/ウイスキー文化研究所認定 ウイスキーレクチャラー。社内セミナーを機にウイスキーの魅力に目覚める。2022年9月現在、アサヒビール中部統括本部営業企画部で業務用の販促企画などを担当している。

 前回まで2回にわたり弊社が販売するニッカウヰスキーの「シングルモルト余市」と「シングルモルト宮城峡」をご紹介させていただきましたが、その中で原酒のタイプを表す言葉として、「ヘビリィピーテッドタイプ」や「ライトピートタイプ」といった言葉を使わせていただきました。この「ヘビー」や「ライト」といいますのは、ウイスキーの原料となる麦芽に焚き込む、ピート(泥炭)に由来する香りの強弱のことです。

  モルトウイスキーは大麦を発芽させた麦芽が主原料です。大麦は発芽させることで、自らの酵素ででんぷんが糖に変わります。その糖に酵母を加えてアルコールへと発酵させるわけですが、水分を与えられた大麦を発芽した状態でとどめるためには、麦芽を乾燥させる必要があります。その際の熱源としてピートを使うのです。

  ピートは枯れた植物などが堆積したもので、石炭の赤ちゃんのようなものです。通常なら枯れた植物は微生物に分解されて土へと戻りますが、気温が低く湿度が高いと、分解される前に堆積していき、柔らかい土のような状態になります。そのような状態なのですが、日本語で泥炭という呼び名通り可燃性があるのです。

 日本では北海道など一部でしか取れないそうですが、気温の低いスコットランドは島の大半がピート層に覆われていて、昔から身近な燃料として使われ、麦芽の乾燥にもピートが使われてきました。

 このピートを燃やして麦芽を燻し乾燥させる際に麦芽に香りが移ることで、スモーキーフレーバーと呼ばれる香りのもとになるのですが、この麦芽につく香りの強弱を「ヘビー」「ミディアム」「ライト」などと表現するのです。さらに、ピートの元となる植物の種類によっても香りが異なります。目指すウイスキーの味わいにあわせてこれらのタイプを使い分けるのですが、タイプの特徴を前面に出したものや隠し味的に使われているものなど使い方も様々で、ウイスキーの奥深い世界を形づくる要素の一つとなっています。

 さて、ピートについてのお話をさせていただきましたが、麦芽を原料としたモルトウイスキーのすべてがピートを使用しているというわけではありません。麦芽の乾燥にピートを使わない「ノンピートモルト」を使ったウイスキーもございます。

 弊社が販売しているブレンデッドウイスキー「ブラックニッカ クリア」もその一つです。クセを無くし、口当たりがよく、爽やかですっきりしていて後味のキレも良い、気軽にウイスキーを楽しんでいただけるよう、軽やかな味わいを追求したウイスキーです。特にハイボールにしてお飲みいただくと、炭酸の爽やかさと相まって、原料由来の成分が多く残っているカフェグレーンとノンピートモルト原酒の麦芽由来の風味や柔らかな甘さが引き立ち、飲みあきすることなくウイスキーのおいしさを楽しんでいただけると思います。

 そして「ブラックニッカ」にはお客様の嗜好にあわせてコンセプトを変えた、兄弟ともいえる商品もございます。次号ではその兄弟をご紹介させていただきたいと思います。

「ブラックニッカクリア」

ピートをあえて使わないことで、軽やかな味わいを追求した「ブラックニッカ クリア」。原料由来の風味が引き立つハイボールがおすすめ。

※「醸-かもす-」2016年3月号掲載

※本記事の内容は日付等の記載がない限り「醸-かもす-」掲載時点でのものであり、将来にわたってその真意性を保証するものでないこと、掲載後の時間経過等にともない内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。

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