きのした ともかず/ウイスキー文化研究所認定 ウイスキーレクチャラー。社内セミナーを機にウイスキーの魅力に目覚める。2022年9月現在、アサヒビール中部統括本部営業企画部で業務用の販促企画などを担当している。
今回ご紹介させていただくのは、宮城峡蒸溜所が生み出す味わいをわかりやすく表現したウイスキー、「シングルモルト宮城峡」です。
宮城峡蒸溜所が生み出す「宮城峡モルト」は女性的と評され、男性的と評される余市モルトと対を為すといえる個性を持っているのですが、これには明確な理由があるのです。
余市蒸溜所に続く二つ目の蒸溜所建設には、余市とは異なる個性を持ったモルトを造るという目的がありました。香りや味わいの異なるものを合わせることで、単一では表現できないおいしさが生まれる、それがウイスキー、特に、ニッカ創業者の竹鶴政孝が学んだスコッチの特徴ですが、その本質を追求し、より本格的なウイスキー造りを行うためでした。
宮城峡蒸溜所は宮城県仙台市の中心部から20キロほど西にあります。冷涼で穏やかな気候や豊富な森林など、余市とはまた違った自然環境ながらも、広瀬川と新川川(にっかわがわ)という二つの清流が合流し、その温度差のため四季を通じて霧や靄に包まれ、また、仕込みに使う新川川の伏流水の硬度も非常に低く、ウイスキー造りに最適の土地です。この土地に初めて訪れた竹鶴政孝は、新川川の水で割ったウイスキーを一口飲み、蒸溜所建設を即決したそうです。
蒸溜設備も宮城峡と余市では大きく違います。余市は「ストレートヘッド型ポットスチル」で「石炭直火蒸溜」しますが、宮城峡では「バルジ型ポットスチル」で「蒸気間接蒸溜」するのです。
「バルジ型ポットスチル」は、もろみを熱する部分の上部に丸く膨らんだ部分があるのが特徴です。蒸気がそのまま上がっていくストレートヘッド型とは異なり、バルジ型では膨らんだ部分で蒸気が対流し、軽やかさや華やかさやを含んだ成分は上部へ、過度なボディ感や重苦しさを含んだ成分は液化し再び過熱部分へと戻ります。また、ラインアームもななめ上を向いて取り付けられており、そこでも余分な成分は液化しポットスチルへと戻るようになっています。
「蒸気間接蒸溜」という方法は、ポットスチルの内部に巡らせたパイプに蒸気を通してもろみを加熱する方法です。蒸気の温度は約130℃。余市では800℃に達する石炭の炎で重厚な風味を引き出しますが、宮城峡では低い温度でじっくりと加熱し、発酵由来の甘さや香りを存分に引き出すのです。
こうしてできた原酒が樽に詰められ、霧や靄、森林が生み出す清廉な空気に包まれながら熟成を重ね、女性的と評される「宮城峡モルト」へと成長していくのです。 「シングルモルト宮城峡」は、シェリー樽モルトを味わいの中心に、様々な個性を持つモルトをヴァッティングしています。新樽モルトの爽やかさやライトピートタイプの麦芽に由来する穏やかなピート香が、華やかでフルーティーな「宮城峡モルト」の個性を一層引き立てます。キレの良さも特徴ですので、ハイボールで楽しんでいただくのもおすすめです。
宮城峡蒸溜所の個性を表現した「シングルモルト宮城峡」。
宮城峡蒸溜所のバルジ型ポットスチル。中ほどにふっくらと丸い部分があるのが特徴。
※「醸-かもす-」22016年2月号掲載
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