きのした ともかず/ウイスキー文化研究所認定 ウイスキーレクチャラー。社内セミナーを機にウイスキーの魅力に目覚める。2022年9月現在、アサヒビール中部統括本部営業企画部で業務用の販促企画などを担当している。
前回、前々回とブレンデッドウイスキーのお話をさせていただきましたが、単一蒸溜所のモルト原酒のみでつくるシングルモルトウイスキーも大変な注目を集めています。ブレンデッドと比べて、各蒸溜所の個性が明確で力強い味わいのシングルモルトは本格感やプレミアム感が高く、また熟成やブレンドといった、ウイスキーの不思議な世界を探求するための道しるべにもなる、そんな魅力にも溢れています。
単一蒸溜所のモルト原酒のみを使用するシングルモルトウイスキーですが、ウイスキーの本場スコットランドと日本では、少し事情が異なります。
スコットランドでは、数多くある蒸溜所の原酒を瓶詰め業者が買い付けてブレンドして販売するのが伝統的なスタイルでした。そうすることで一定の味わいのウイスキーを安定供給することが可能になるのですが、そのためには各蒸溜所の生み出す味わいも安定していることが重要です。スコットランドの各蒸溜所は、それぞれに伝統的な味わいを守った原酒を造り続けるという使命があり、その過程で各蒸溜所の個性が磨き上げられてきたのです。
日本では、竹鶴政孝が製造法を学び日本に持ち帰るまで蒸溜所そのものがありませんでしたので、限られた蒸溜所で様々なタイプの原酒を製造する必要がありました。ですから伝統的に、様々な工夫を用いて原酒を作り分けています。
例えば、タイプの大きく異なる蒸溜器を使い分けます。また使用する酵母も、スコットランドでは各蒸溜所1~2種類ほどだそうですが、ニッカ社では2つの蒸溜所で各々異なった複数種の酵母を使用しています。さらに、様々なタイプの樽を用いて熟成させます。形状や大きさ、使用する木材の種類などを使い分けます。また、シェリー樽やバーボン樽なども用います。
熟成を経るうちに一つとして全く同じ味わいの原酒に育つことはありません。それらの原酒をブレンドして、多種多様なウイスキーを生み出す根幹となる味わいを表現する。それが日本のシングルモルトです。
一つの蒸溜所でいくつものタイプの原酒を造り分けるという方法は、日本人特有の繊細な味覚と相まって、世界的にも稀な技量を持ったブレンダーの育成にもつながりました。竹鶴政孝の技術を受け継ぐその技量は、現在ジャパニーズウイスキーが世界的に認められている大きな要因の一つでもあります。
日本のシングルモルトには、日本独自の文化という個性が込められています。弊社では「シングルモルト余市」「シングルモルト宮城峡」を販売しています。
次回は両製品の味わいの特徴と、その特徴を生み出す両蒸溜所の個性についてご説明させていただきます。
「シングルモルト余市」
「シングルモルト宮城峡」
石炭の火で直接熱し、ストレートヘッド型のポットスチルで蒸溜する余市蒸溜所、かたや蒸気による間接蒸留で熱せられるバルジ型のポットスチルで蒸溜する宮城峡蒸溜所。前者は重厚さと香ばしさ、後者は軽やかさと華やかさと、全く異なる個性を持った両蒸溜所の特徴を持つシングルモルト。
アルコール分45%/700ml・4,200円/500ml・3,080円/180ml・1,140円/50ml・560円※価格は税別参考小売価格。
※「醸-かもす-」2015年12月号掲載
※本記事の内容は日付等の記載がない限り「醸-かもす-」掲載時点でのものであり、将来にわたってその真意性を保証するものでないこと、掲載後の時間経過等にともない内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。