「ブッシュミルズ」マスターディスティラー、エーガン氏がセミナー
アイリッシュウイスキーがアメリカ市場を中心に世界的な成長を続けており、昨年は世界で850万箱(1ケース8.2ℓ換算)を販売。日本市場での昨年の販売数は、2011年と比べるとおよそ2倍となる3万ケースと右肩上がりに伸長している。そのうち、アサヒビールが国内販売しているブッシュミルズは、昨年10月からの1年間で2900箱を販売。業務用を中心にプロモーションを展開し、今年1年間では3千箱を販売する見込みで、来年は4千箱の販売を目指している。
そんな中、「ジ・オールド・ブッシュミルズ」蒸溜所のマスターディスティラー、コラム・エーガン氏が来日し、アイリッシュウイスキー「ブッシュミルズ」のセミナーを行った。エーガン氏が来日するのは初めて。
エーガン氏はアイルランド・リムリック大学で生産マネジメントの学位を習得し、卒業後はアイリッシュウイスキーのブレンディングやボトリングに携わったほか、ビール会社勤務も経て、2002年にブッシュミルズのマスターディスティラーに就任した人物。
セミナーでは、「飲むときにはリラックス。リラックスしたら眠たくなる。眠たくなったなら罪は侵さない。罪を犯さないなら天国に行ける。では飲んで天国に行きましょう」と乾杯。「グラスを耳に近づけると、Try me、Drink me、Love meと言っているように聞こえませんか?ブッシュミルズのウイスキーしかそんなことはささやかないのです」など、ユーモアを交えながらブッシュミルズの魅力をアピールした。
セミナーでのエーガン氏の言葉をまとめた。
※「醸-かもす-」2016年11月号掲載
ーフレンドリーなウイスキー
エーガン氏―私はブッシュミルズのウイスキーをフレンドリーなウイスキーと呼んでいます。鼻にも優しく舌にも優しい、そしてとてもスムースです。
ブッシュミルズの造り方とスコッチの造り方がよく似ているということはお判りだと思います。まず原料となる大麦を水にひたして発芽させ、それを完全に乾燥させますが、その乾燥のさせ方にスコッチとの大きな違いがあるのです。
ブッシュミルズでは乾燥に温風を使うノンピート麦芽を100%使用しています。スコッチは全部というわけではないが、ピートの煙で乾燥させる。なので、ブッシュミルズの香りをかいでいただければお判りいただけると思いますが、ピートを焚いた、いわゆるスモーキーフレーバーは全然感じられない。
二番目に重要な要素は水です。なぜ我々の蒸溜所がそこにあり、多くの人気を集めてきたかというのは水にある。蒸溜所近くのジャイアンツコーズウェーという場所には、バーセルロックという岩石層があり、そこに水が流れているのですが、この岩石は特徴のあるミネラル成分を含んでいる。その水を63℃から85℃ぐらいに温めて粗びきした麦芽をマッシング(糖化)するのです。
そうして得られたウォッシュ(糖化液)にイーストを加えて発酵のプロセスが始まるわけですが、ウイスキーの品質のすべてにかかわる成分が発酵によってできるので、非常に重要なプロセスです。
このウォッシュを蒸溜するのですが、ブッシュミルズの蒸溜においてキーポイントとなるのが、3回蒸溜を行っているということです。なぜ3回行うかというと、それでテイストが変わるからです。
ウォッシュの段階で8%だったアルコール度数は、最初の蒸溜で20%になります。2回目の蒸溜で70%に、そして3回目の蒸溜で85%に達します。アルコール度数が85%に達するということが非常に重要で、このアルコールのテイストこそがブッシュミルズのフルーティーで華やかなテイストをつくるのです。この後、樽に詰めて熟成させるわけですが、基本となるテイストはこの蒸溜でつくられるのです。
非常に背が高く首の部分が細いポットスチルを使いますが、このポットスチルで繰り返し蒸溜することでスムースなテイストを造っています。蒸溜液の香りをかぐと、とても軽やかでフルーティーで、スパイシーな香りがします。
蒸溜液の色はクリスタルクリアですが、ウイスキーはゴールデンブラウンの色をしています。これはオーク樽の熟成によって生じる色です。
新しいオーク樽は使いません。我々はケンタッキーに行き、スペインに行き、ポルトガルに行き、マディラ島に行き、バーボンやシェリー酒が詰められていた樽を買い付けます。
我々は非常に長い間、ウイスキーをつくっていますので、近隣だけに限らす世界各地の人達とも非常に近しく、強いきずなを持っています。
「ブッシュミルズ」-BUSHMILLS-
エーガン氏ー液色は軽くライトな色合い。バーボン樽を使っているので、バニラやトーストしたウッドの香りを感じていただけると思います。
のどを通るときに、非常にスムースな感じがするのがお判りになるでしょうか。舌にも非常にフレンドリーです。軽やかで、そしてフルーティーなバニラの味が感じられると思います。
後味も非常にまろやかで、舌を丸めるとそのたびにフルーティーな香りが口いっぱいに広がります。
このフルーティーなキャラクターはブッシュミルズのウイスキーに共通しています。
飲んでいただくと微笑みが造られるウイスキーです。
「ブッシュミルズ」-BUSHMILLS-
容量700㎖ アルコール分40% オープン価格
ノンピートモルトをバーボン樽で熟成させた原酒が50%、グレーン原酒50%のブレンデッドウイスキー。
「ブッシュミルズ ブラックブッシュ」-BUSHMILLS BLACKBUSH-
エーガン氏ーオリジナルよりも深みをおびた色合い。しかし香りをかいでいただくと、これもフルーティーであり、フレンドリーであり、とても優しい香りです。
ブラックブッシュは面白いウイスキーです。口に含んでいただくと、舌の上に浮いたような感じですっと吸い込まれていく。ふわふわとした香りがのどまでいくとナッツのようなスイートな香りが上がってくる。そしてフルーティーでスパイシーで甘い香りを、もっと発するようになります。舌を丸くすると口いっぱいにフルーティーな味わいが広がります。
シェリーの大樽で熟成していますので、ナッツのソフトなニュアンスや滑らかな舌触りも味わえると思います。
「ブッシュミルズ ブラックブッシュ」-BUSHMILLS BLACKBUSH-
容量700㎖ アルコール分40% オープン価格
ヨーロピアンオークのシェリー樽とバーボン樽で熟成させたノンピートモルト原酒を80%以上使用したブレンデッドウイスキー。
「ブッシュミルズ シングルモルト10年」-BUSHMILLS SINGLEMALT 10 years old-
エーガン氏ーエイジングは10年と表記していますが、シェリー樽で13年熟成させたモルトも入っています。エレガントで、オリジナルやブラックブッシュと比べるとデリケート。毎日飲める、いつでもリラックスできるウイスキーです。
舌に一滴乗せると、溶けたチョコレートのような味わい。アップルペイストリー(パイやタルトなどのこと)の味もしませんか。口中の両側にはハチミツの香りも感じます。
非常に味わいのコントラストがはっきりしていて、のどではドライな感じ、口の最初の方では非常にスイートな香りがします。欧州のレストランのシェフたちはこれが一番料理に合うといっています。
「ブッシュミルズ シングルモルト10年」-BUSHMILLS SINGLEMALT 10 years old-
容量700㎖ アルコール分40% オープン価格
最低10年以上寝かせたバーボン樽熟成原酒とシェリー樽熟成の原酒をヴァッティングした、ノンピートモルト100%のシングルモルト。
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