サッポロビール文化広報顧問・ヱビスビール記念館館長 端田晶氏に聞く 最終回
フランスのワイン法は、ワインという産業が健全に育成されて、国民の健康に、あるいは外貨の獲得にただしくつかわれるようにっていうのが立法の主旨です。ワインは国民の健康にも必要だし、外貨の獲得にも必要、だからワインはこういう造り方をしなきゃいけない、変なものは入れちゃいけないと。
でも日本の酒税法って酒税の保全のためなんですよね。
戦後の復興期、昭和30年前後は国税の10数%が酒税でした。それはお酒の産業がほかの産業より早く復興し、造れば売れる時代でもあったので、税金をかけてもチャンと消費されていたからです。そして、国は酒税を取ることでほかの事業をやることができたんです。だから、酒税の保全っていうのは国を健全にすることでしたので、当時の酒税っていうのは本当に国に貢献したんです。だから単純に酒税の保全のために酒税法があるといっても不思議でもなんでもないんですよ。それがなかったら国の復興が遅れるんですから。
でも今はそうじゃない。国税の3%台ですからね。もう法律の主旨を変える時期だと思います。国民みんなが健康であるためにとか、文化としてのお酒がちゃんと継承されていくためにとか、あるいはクールジャパンと一緒に吟醸酒が海外に出ていきやすいようにとか、国として日本のお酒のブランドがよくなるために、税法というものが変わるべき時代がそろそろ来ているんだろうなという気がしています。
地ビール解禁からもう20年たちましたよね。ワイン特区も2008年に本格的に認められました。小さいワイナリーがいっぱいできて、それらも含めて日本産ブドウの日本産ワインというブランドにになりつつあるわけです。結局、やる気のある人が小さいレベルで起業していく。そういうことがちゃんとできる仕組みがあるかどうかだと思うんですよね。
例えば、明治時代はビール会社が全国で100以上ありましたが、税金がかけられることによって、ほとんどが廃業に追い込まれたんです。
小さい会社は税金を先払いできないだろうということを前提にして、会社の数を無理やり減らしていって、途中から「ビール工場を建てるんだったら千石以上の工場でなきゃイカンよ。10年間の猶予あげるからね」と。その期間中に成長できなかったビール会社は、明治時代に名を遺してるビールなのに廃業に追い込まれたわけです。それで結局、大日本麦酒と麒麟麦酒だけになってく。
これはまさに、税金を取りやすくするために、大きい醸造所があれば他はいらないっていう、国のわがままそのものなんですね。それが多様な文化をつくらなかったというのは明白です。 だから、地ビールにしてもワイン特区にしても、やる気のある人が小さいレベルから起業できる仕組み。ウイスキーも小さいところが結構あるじゃないですか。そういう企業を育てていく仕組みが必要だと思います。
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