サッポロビール文化広報顧問・ヱビスビール記念館館長 端田晶氏に聞く④
「醸-かもす-」2015年4月号掲載
お酒が人の交わりに役立つのはわかっているのに、それがどこかで薄れてしまって、お酒というアイテムが選ばれなくなってきてる。その理由の一つに、酒場の形態が変わってきて個人経営のお店が減ってきているということもあると思うんですよ。
お店として、お客さん同士を紹介するっていうのは、企業にとってみればリスクなんですよ。例えば、個人店のスナックのマスターが隣同士のお客さんを紹介して、何かどうこうしたって、それはそこだけの問題じゃないですか。だけど、企業がそういう仕掛けをすると、相手の素性もわからないのに責任がとれるのかみたいな話になる。だからどんどん客席も囲っちゃうわけですけど、それぞれの囲いの中で勝手に宴会をやっているので、下手をすると隣がうるさいとかっていう苦情になったりもするんです。
でも、昔はついたてもないし、おなりの人達とも場合によっては話が弾んだり、酒場の礼儀みたいなものもあって、そういうことができてたわけですよ。
僕は大学に5年間いってるんですけれども(笑)、結構長い間、吉祥寺の呑み屋さんでバイトしていたんです。開業の時はお客だったんですよ。でもツケがたまって体で払えってことで(笑)。
僕はご飯が作れたんで、店の厨房でピラフやスパゲッティ―をつくってました。そのお店は38年間営業して、ママさんが60半ばになってもういいやってことで5年ほど前に閉店したんですが、常連さんが沢山いたんで、僕が幹事をやってお店を閉めた後にみんなでさよならパーティーをしようと声をかけたんです。
そしたら15~16人しか入らない店に70人来たんですよ。もうママさんが怒ること怒ること。「お前らが毎日来てたら店つぶさないんだ!」っていってね(笑)。
それから今も毎年一回みんなで宴会するんですよ。少しずつ人数は減ってますけど、今年も55人ぐらいは来たかな。ママさんがそういう年代ですから、お客さんも年を取ってくるし、新しい人は増えませんからね。
今年の会もね、あの人は入院した、あの人は死んじゃったなんて話ばかりしてました(笑)。それでも50何人が、あの頃はねぇなんて話で盛り上がるんですよ。
そのお店で知り合って今でも年賀状のやり取りなんかをしてる人が、100までいかないと思うんですけど、多分70人よりは多いと思います。宴会の案内状は90枚ぐらい出すんですが、ご夫婦も多いから多分人数的には100人以上。なかなかすごいでしょ(笑)。
企業として安全に酒場を運営しようと思ったら、お客同士を仕切っちゃたほうが楽なんです。でもそれが幸せなことかっていうと私はあまりそうではないように思っているんですよ。
大学時代の知り合いと昔話しようなんてときは個室のほうがいいんですよ。だけど、酒場ってそればっかりじゃないだろうという気がするんですよね。
人との交わりをつくっていく、ゆるやかな連帯をつくっていくということの面白さっていうのが酒場にはあるはずなんです。
※本記事の内容は日付等の記載がない限り「醸-かもす-」掲載時点でのものであり、将来にわたってその真意性を保証するものでないこと、掲載後の時間経過等にともない内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。