サッポロビール文化広報顧問・ヱビスビール記念館館長 端田晶氏に聞く③
「醸-かもす-」2015年3月号掲載
福沢諭吉が「西洋衣食住」という本の中でビールを紹介してるんです。「これは麦酒である。その味いたって苦けれど胸郭を開くに妙あり」と書いてるんですよ。今の言葉でいうと胸襟を開くとか腹を割って話すとか、そういうことです。
福沢諭吉がビールの本質をどこに見たか。ビールはコミュニケーション活性化ツールだということを直感したわけです。「福沢先生さすがですね!」と言わざるを得ない。
ほかのお酒と違って、ビールは一人が似合わないんですよ。カウンターでコップ酒を一人で飲んでると、渋くてカッコいい感じがするし、ハードボイルドの小説だと探偵がバーボンをキュッとストレートで飲んでバーから出ていくとか、そういうカッコ良さがありますが、ビールはあんまりそういうカッコ良さがない( 笑)。
どちらかというと、あけっぴろげにみんなでワーワーやってるから良いんであって、そうじゃないビールは飲むのに時間がかかりますよ。しゃべる相手がいないと缶ビール一本でももてあます。いくらおしゃべりの私だって壁に向かってはしゃべりませんからね(笑)。やっぱり、しゃべる、笑う、歌う、そういうこととビールは非常にかかわりが深い。
それから乾杯をしようということも最近よく言ってるんですよ。乾杯をするっていうのは、共同体として最初の儀式をするということです。共同体としての絆を強めるには、そういう儀式的なことが少し必要なんです。
そういう意味ではビアホールってすごく存在意義があるんです。ビアホールは10人で行っても、バっと10杯ジョッキが出てくるわけですよ。そうするとみんなで乾杯しようとなるわけですよね。
ところが普通の生ビールの抽出機って遅いんですよ。10人が同時に乾杯するために注いでいると最初のビールは泡がへたる。ビアホールの抽出機って2~3秒で注いじゃいますけど、普通の機械だと15~20秒かかっちゃうんで、その差が大きいんですよね。
だから、そういう時は生ビールはあきらめて瓶ビールで注ぎあって乾杯しましょうと。同じものを飲む。同じものというのも儀式的な効果があるんですね。それを「私はカシオレ」「僕はウーロン茶」なんてバラバラのものを言われると、順番もばらばらに出てきて、いつ宴会が始まったんだかわからなくなっちゃう( 笑)。
それにね、実は乾杯っていうのはビールをおいしくするんです。
「乾杯!」っていうときに、背筋を伸ばして手を高く上げてってやりますと、姿勢が伸びるでしょ。姿勢が伸びると喉がまっすぐになりますから、ビールがスっと喉を通るんですよ。これを、おっとっとって言ってかがんだ姿勢で口から運ぶと泡ばかり飲んじゃう。そうするとビールはおいしくないんですね。
背筋伸ばしてっていうとなんか説教臭いから(笑)、胸張って元気よく乾杯しようっていうとね、なんとなくみんないい姿勢になって、すっと飲めるんです。すると「ビールっておいしいな」となる。そういうことが一つ一つ重なっていくと雰囲気のいい宴会になって、お互いの気持ちがほぐれていくんだろうなと。
スウィングしてる感じってあるじゃないですか。話しをしててドンドン乗ってきて、どこかで笑いが起こって、こっちも面白いけどあっちも面白い話をしている。そういう状態になれば最高ですよね。
※本記事の内容は日付等の記載がない限り「醸-かもす-」掲載時点でのものであり、将来にわたってその真意性を保証するものでないこと、掲載後の時間経過等にともない内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。