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滋賀の地酒は玉手箱 キラキラ輝く豊かな個性

「醸-かもす-」2015年4月号掲載

 國酒・日本酒。平成25年度の課税移出数量が59万klを割り込むなど、ピークを記録した昭和48年度の33%あまりまで減少。バブル経済の影響や地酒ブームで一時回復傾向を見せたものの、長らく低迷の一途をたどっている。

 そんな状況の中、近年注目を集めているのが滋賀の酒。平成24酒造年度(平成24年7月から同25年8月)は前年比100・29%、翌25酒造年度は同102・5%と数量を伸ばしている。

 「酒造りに関しても販売面も、今までとは違った新しい感覚を投影しながら蔵の個性を出していく集団になってきてる。小粒やけどキラキラ輝いてる。僕は玉手箱やと思てます」。そう滋賀の地酒を評する、滋賀県酒造組合の藤居鐵也会長(藤居本家)=上写真。

 滋賀の地酒の特徴はバラエティーに富んだ個性の豊富さだ。その豊かさが消費者の関心を生み、次の一杯を生み出していく。

 滋賀県酒造組合が主催する「みんなで選ぶ滋賀の地酒会」。滋賀の地酒を消費者がブラインドテイスティングし、好みで味わいを評価するイベントだ。およそ100点にも及ぶお酒をすべて試飲するにはかなりの労力を要するにもかかわらず、皆飽きることなく評価を続ける。終了した後も「疲れた」とこぼしながら、「あの酒は旨かった」「何番の酒はたぶんあそこの蔵だ」と、意見を交わす。その様子は、滋賀地酒の個性の豊かさをうかがい知るに充分だ。

滋賀地酒の祭典の成功

 みんなで選ぶ滋賀の地酒会を含む「滋賀地酒の祭典」は、毎回多く人で賑わうが、その人気を証明する一つの事例がある。

 「準備が終わってから、『会長大変や!JR止まる言うてまっせ!』って。もうやめようかとも思ったんですよ。でもたくさんの方にお越しいただいて。根強いファンの方がいてくださって本当にありがたいと思います。それに応えていく努力を続けていかないとダメやと思いますね」。

 そう藤居会長が振り返る地酒の祭典のメインイベント「県内33蔵大集合」が開催されたのは、昨年10月13日。沖縄、九州、四国を縦断しながら大型の台風19号が接近、最寄りの交通機関であるJR線は夕方からの運休を決定するなど、最悪の条件が重なった。

 集客が危ぶまれる中での開催となったが、ふたを開ければ1200名が来場する盛況となった。前売り券が惜しい人が多かったのではといぶかしがる向きもあるだろうが、前売り券の販売数はおよそ150枚程度で、台風の情報がすでに伝えられていた当日に会場へおもむくことを決めた人が大勢を占めていた。それだけ滋賀の地酒を味わう機会を逃したくないという思いの強い人が多いことの表れだ。

 滋賀地酒の祭典に訪れる人の数は、第一回の800人から第4回には2000人を突破。第6回は悪天候のため1500人程度となったが、第7回は再び2000人を突破。昨年も台風がなければ、おそらく2000人を突破していたはずだ。

 その予想の根拠は人気の高まりが滋賀県内だけでは収まっていないからだ。昨年9月7日、大阪でも滋賀地酒の祭典を初めて開催した。

300人来場するかどうかもわからないと不安を抱えながらのスタートだったが、会場を押さえ準備を進めていくうちに反響が予想を超え、結果1200名超が来場し入場制限をするほどの盛況となった。

 「びっくりしましたよ。他のエリアの方も大阪でいろいろイベントをやってらっしゃるんで、割と近い距離感を持っておられる方が多かったことが要因かもしれませんし、長いこと滋賀県から発信して大阪の方もたくさん来てくださってたので、そういう方が周りのお友達を誘ってきてくれたんじゃないかとも思います」と、藤居会長は振り返る。

 実に当初予想の4倍が訪れる盛況。当然地酒の祭典のメインイベントにも足を運ぼうと考える人も多かったはずだ。台風19号とJR西日本の運休が悔やまれる。 

 しかし大阪でのイベントが成功した意義は大きい。

 「今まで滋賀県側の僕らの、向こうに向けた努力が足らなかったかもしれない。向かっていけるとっかかりができた。第一歩を踏み出せたということは大きいと思いますね」。

 今後の発展に向けての大きな大きな一歩だ。

魅力まとめる玉手箱

 「滋賀県の酒は○○だ」と特徴を言い切れる人はいないだろう。裏を返せば、各蔵によって甘辛・濃淡さまざまで、バラエティーに富んでいるのが滋賀の地酒の特徴だ。また、30代~40代の若い世代が活躍する蔵元も多く、新たな需要の開拓や商品開発にも積極的で、それが刺激にもなり全体の活性化につながっている。

 藤居会長は「元気なお蔵元が前を向いて一生懸命頑張っておられる。それが滋賀の地酒の一番の強みやと思いますね」と話す。滋賀の地酒を玉手箱と評する所以でもある。

 ただ、規模の小さな酒蔵が多いのも事実で、酒造りに思いを反映させやすい一方、外に打って出るのが難しいのも実情だ。各蔵のキラキラとした個性を詰合せ、外へと発信する

魅力を持つ玉手箱にするには、それらをまとめる入れ物が必要だ。

 現在の滋賀県酒造組合は、2006年に県下の酒造組合が統合する形で発足した。県下の酒造組合を統合したことによって、個性的な蔵元が集まる滋賀県というくくりで一つの潮流が生まれた。そうしてできた入れ物の一つが地酒の祭典だが、もちろんイベントを開催しただけでは評価は上がらない。酒が不味ければ、いくら頑張っても元の木阿弥だ。

 だが現に地酒の祭典には人が集まっている。品質も年々高まっているということだ。品質の向上にも組合一本化が役立っている。

 酒造りが終わるころ開かれる組合員を対象とした新酒きき酒会では、県下の各蔵がその年の新酒を出し合い、互いに評価する。その際、出品酒の精米歩合や使用酵母といったデータが公表される。

 各蔵は手の内をさらす格好だが、その時の評価や情報は各蔵元にとって、目標になったり対抗心になったりと、様々な形の刺激となって互いに切磋琢磨する材料になる。組合一本化によってその対象が広がったことで、より多くの刺激を受けた蔵元が、その刺激をさらなる品質向上や個性の発揮につなげているのだ。

 「これまで酒屋は〝良いものを造れば売れるやろ〟みたいな感じやったんです。良いものをつくる努力は当たり前にずっと続けて行かんならんのですけど、そのお酒をどうお客さんに伝えながら共感をいただいて、感動してもらえるか。それも大事。両方が上手に重ならないと上手く行かんようになる」

 藤居会長の語る、品質と消費者への価値訴求。その両輪がうまく連動し新たな需要を生み出しているのが、今現在の滋賀の地酒の姿だ。

 端麗な酒、濃醇な酒、香りの酒、辛口の酒、甘口の酒。今後、お酒には嗜好品として、さらに様々な味わいが求められて行くだろう。バラエティに富み、様々な個性が際立つ滋賀の地酒が受け入れられる素地は広がっている。

 浦島太郎は乙姫がかけた禁を破り玉手箱を開けてしまったが、滋賀地酒の玉手箱に禁はかけられてはいない。中に詰まった沢山のキラキラが魅力に満ちていることは、地酒の祭典の賑わいが証明している。開けない手はないだろう。

滋賀県産米100%、宮中祭祀に御神酒を献上

「旭日」醸造元 藤居本家(愛知郡愛荘町)

 創業は天保2年(西暦1831年)。代表銘柄は「旭日」。毎年秋に行われる宮中祭祀の新嘗祭に御神酒を献上する、栄えある酒蔵だ。低農薬低肥料栽培の滋賀県産酒造好適米を100%使用し、能登流杜氏が醸す。

 事務所や店舗のある社屋のスケールは圧巻。樹齢700年の大けやきを中心とした総けやき造りで、2階大広間はコンサートや展覧会も開催する広さ。酒蔵見学を実施している東蔵は国の登録有形文化財だ。NHK朝の連続テレビ小説「甘辛しゃん」の撮影が行われたこともあり、つい先日も、4月12日からNHK・BSプレミアムで3週連続放送されるドラマ「リキッド」(午後10時から)の撮影が行われたばかりだ。

 アクセスは国道8号線長野交差点を東に300m。酒蔵見学は2日前までに予約。

▽住所/愛知郡愛荘町長野792▽電話番号/0749‐42‐2080▽HP/ http://fujiihonke.jp

※本記事の内容は日付等の記載がない限り「醸-かもす-」掲載時点でのものであり、将来にわたってその真意性を保証するものでないこと、掲載後の時間経過等にともない内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。

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