きのした ともかず/ウイスキー文化研究所認定 ウイスキーレクチャラー。社内セミナーを機にウイスキーの魅力に目覚める。2022年9月現在、アサヒビール中部統括本部営業企画部で業務用の販促企画などを担当している。
ウイスキーブームが続いていますが、このブームは何も日本に限った話ではありません。世界的に見れば、日本でのブーム以前から大ブームになっていまして、例えば、アイルランドのウイスキー「アイリッシュウイスキー」は、この10年ほどで世界販売数量が約2倍にまで成長しています。
弊社が国内販売している「ブッシュミルズ」も、その一つです。製造している「ジ・オールド・ブッシュミルズ・ディスティラリー社」は、1608年に蒸溜免許を与えられ、現存する最古の公認蒸溜所と言われています。
まったりとした口あたりやモルトのしっかりした味わいを感じさせるコク感がありながら、軽やかでスムース、クリーンな飲みやすさも併せ持った味わいが特徴です。この味わいは、アイリッシュウイスキーの伝統的な3回蒸溜という手法と、ノンピート麦芽を100%使用することから生み出されます。
元来、アイリッシュウイスキーの伝統的手法とは、麦芽の他に未発芽大麦やオート麦・ライ麦・小麦等を使用すること、ノンピート麦芽の使用、3回蒸溜といった点です。
アイルランドでは、原料である麦芽に課税された時代があり、それ以来未発芽の大麦を使用するのが伝統となりました。現在でも「ピュア・ポットスチルウイスキー」と呼ばれるジャンルのウイスキーは麦芽と未発芽大麦が原料です。未発芽大麦が生み出す、オイリーでまったりとしたコク感のある味わいが、アイリッシュの伝統的な味わいとなりました。
ノンピートの理由は、ピート層自体がスコットランドと比べて少なく、また、燃料としての必要性も低かったため、麦芽の乾燥にピートが使われなかったからです。また、蒸溜はスコッチと同じく単式蒸溜器ですが、非常に大型の蒸溜器を使用して3回蒸溜します。これによりクリーンでさらっとした飲みやすさが生まれます。
18世紀以降、大英帝国領土やアメリカ大陸を中心に愛飲され19世紀には世界のウイスキーの60%を占めていたと言われるアイリッシュ。しかし、アイルランド独立戦争やアメリカの禁酒法の影響もあり、1920年以降急激に衰退し世界の市場から消えていきました。
今、スコッチと少し異なるアイリッシュの味わいが再び脚光を浴びています。その筆頭が伝統あるアイリッシュウイスキー「ブッシュミルズ」といえるでしょう。このような歴史を紐解きながら楽しんでみては如何でしょうか。ぜひ一度お試しください。 次号では、世界のウイスキーに関わる、ちょっとした逸話をご紹介させていただきます。
※ウイスキー画像をクリックするとAmazonサイトに遷移します。
現在稼働している最古の蒸溜所「ジ・オールド・ブッシュミルズ・ディスティラリー社」の「ブッシュミルズ」。写真左から、ノンピートモルト原酒とグレーン原酒をブレンドした「ブッシュミルズ」と「同ブラックブッシュ」、モルト原酒を100%使用した「同シングルモルト10年」と「同シングルモルト12年」。全品アルコール分40%。瓶700㎖。オープン価格。
※「醸-かもす-」2016年5月号掲載
※本記事の内容は日付等の記載がない限り「醸-かもす-」掲載時点でのものであり、将来にわたってその真意性を保証するものでないこと、掲載後の時間経過等にともない内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。