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Vol.7 ストレートヘッドと石炭直火蒸溜

きのした ともかず/ウイスキー文化研究所認定 ウイスキーレクチャラー。社内セミナーを機にウイスキーの魅力に目覚める。2022年9月現在、アサヒビール中部統括本部営業企画部で業務用の販促企画などを担当している。

 新春を迎え、読者の皆様に謹んで新年のご挨拶を申し上げます。昨年に続き、本年もウイスキーのお話にお付き合いいただければ幸いです。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 さて、前号では弊社が販売するシングルモルトウイスキーを二つご紹介させていただきました。

ニッカウヰスキーの二つの蒸溜所の個性や特徴を分かりやすく表現している両製品ですが、まずは「シングルモルト余市」の特徴からご紹介させていただきます。

「シングルモルト余市」の特徴は、重厚さと香ばしさを核とした力強い味わいです。余市蒸溜所でつくられるモルト原酒の特徴でもあり、男性的とも評される力強い味わいは、「ストレートヘッド型ポットスチル」と「石炭直火蒸溜」という二つの特徴が大きく寄与しています。

余市蒸溜所では現在初溜釜4基、再溜釜2基、計6基のポットスチルを使用していますが、すべてストレートヘッド型です。ストレートヘッド型のポットスチルは、もろみが熱せられる下部からなだらかな曲線を描いて、そのまま上部のラインアームと呼ばれるパイプにつながっています。このラインアームが大きく下向きにくびれているのも特徴です。加熱することで水よりも沸点の低いアルコール成分を先に取り出すというのが蒸溜の仕組みですが、アルコール成分とともに揮発した蒸気中のボディのしっかりした香味成分が真っ直ぐに上に昇り、そのまま下向きのラインアームに取り込まれる為、非常にリッチで重厚な力強い原酒が生まれるのです。

そしてもう一つの特徴が「石炭直火蒸溜」です。ニッカ創業者の竹鶴政孝がスコットランドで学んだ製法で、操業開始以来かたくなにこの製法を守ってきているのですが、現在、世界中で常時石炭直火蒸溜を行っているのはここ、余市蒸溜所だけになってしまいました。

その名の通り、ポットスチルの下部を直接石炭の炎で熱してもろみを加熱する方法なのですが、その温度は約800℃もの高温に達します。高温で熱することでポットスチル内には、もろみに適度な「焦げ」ができるのですが、その「焦げ」がウエハースや焼き菓子のような香ばしい味わいを生み出すのです。

「シングルモルト余市」は、この二つの特徴から生み出される重厚なヘビリィピーテッドタイプのモルト原酒を、シェリー樽や新樽で熟成させ、それらをヴァッティングすることで、しっかりとしたボディ感とウッディな樽の風味が加わり、重厚で力強い余市モルトの本質をより一層楽しめる味わいとなっています。 次回は男性的と評される余市モルトに対して、女性的とも評される宮城峡モルトの特徴と、「シングルモルト宮城峡」の味わいをご紹介させていただきます。

力強く重厚な味わいを楽しめる「シングルモルト余市」。

余市蒸溜所のストレートヘッド型ポットスチル。石炭の炎で直接熱することで、力強い味わいの原酒を生み出すポットスチル。常時稼働しているのは世界で余市蒸溜所だけ。

※「醸-かもす-」2016年1月号掲載

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